3月の終わりに、相棒とふたり、六本木に行ってきました。
なお、アルベール・カミュの「異邦人」をフランス語で読んだ話は、こちらです。
ふだんまるで縁のない六本木などに足を運んだのは、ほかでもない、いま話題の国立新美術館で開催されている「異邦人たちのパリ」を見に行くためでした。
ちゃんと六本木交差点の交番わきの地図で確認してから歩き出したのに、どうやら曲がる道を一本まちがえてしまったらしく、美術館の裏側に出てしまい、建物はすぐそこに見えるのに、なかなか近づけず、相棒とふたり、おしゃべりをしながら、結局、ずいぶん遠回りをしてしまいました。
美術館正面に着くと、まだ2007年1月にオープンしたばかりの新名所ということもあり、多くの人たちが、うららかな春の日差しの下で、建物をバックに記念撮影をしていました。
石原都知事いわく「ちょっと頭のおかしな建築家」黒川紀章さんが建てた美術館だけあって、なるほど、斬新なデザインでした。
遠くから、一面ガラス張りの巨大建築物を眺めていると、ふと、2004年2月に相棒と訪れた、パリのルーブル美術館のピラミッドが思い出され、胸がじんとしました。
フランス語と出会うきっかけは、3年前のこのパリ旅行が与えてくれたのです。
エントランスに入ると、窓から差し込む春の陽光に柔らかく包まれた、天井の高い広々とした空間が出迎えてくれました。
むこうにカフェが見えましたので、絵を見る前に、ちょっと一服しようと、そちらへ向かいました。
庭園を望む窓際のいい席が取れました。
コーヒーをすすりながら、ほっと一息ついていると、相棒がコーヒーカップに印字されたフランス語に気づいて、「これ、どういう意味?」と聞いてきました。
実は、わたしも、相棒がコーヒーを買いにレジに並んでいるのを待っているときから、店の名前がフランス語であることに気づき、その意味を考えていたのでした。
「coquille(コキーユ)」という、わたしの知らないフランス語でした。
でも、わたしは、ひとめ見て、音の類似から、「コキヤージュ」という単語を連想していました。
「貝」を意味するそのフランス語は、パリ旅行まえに愛用していたラピッドで覚えたものです。
たしか、英単語とのつながりがなく、フランス語独特の語感を持つこの単語がなかなか覚えられなくて、なんとか頭に入れるために、「コキ」の部分に、バールで貝をこじ開けるイメージを、そして、「ヤー」の部分に、裸を見られてイヤーンと恥ずかしがる貝のイメージを、さらに、「ジュ」の部分に、赤くなった貝の頬から湯気がジュと立ち昇るイメージを重ねて、強引に記憶したのでした。
それにしても、ラピッド以来、おそらく仏検の勉強では1度も目にしていない「コキヤージュ」という(わたしにとっては)マイナーな単語が、3年後、国立新美術館のカフェで、黒板に手書きされた「coquille(コキーユ)」という店名を見た瞬間に、さっと頭によみがえったわけですから、イメージ記憶というのは、たいしたものです。
さて、そうやって、ひとしきり物思いにふけっているわたしに向かって、まさに絶妙なタイミングで、相棒が、「これ、どういう意味?」と、コーヒーカップのフランス語を指差したのです。
そこで、わたしは、「コキヤージュという単語と似ているから、おそらく貝と関係がある言葉だとは思うんだけれど、でも、カフェの名前に貝というのはちょっと変だよね」などと話しているうちに、「コキ」という語感から、ふと、帝国ホテルの話が頭に浮かびました。
フランス人は帝国ホテルを好まない、という例のまことしやかな逸話です。
たしか、フランス語の「コキュ」というのが、「妻を寝取られた間抜けな夫」という意味で、そのため、フランス人は、「テイコクホテル」と聞くと、「チュエコキュオテル(tu es cocu, hotel)」、つまり、「君は、妻を寝取られた間抜けな夫だ」と連想してしまうため、帝国ホテルを好まない、というのです。
その話を思い出したわたしは、「コキーユのコキは、もしかしたら、そのコキュと関係があるのかも知れないよ」と相棒に得意げに語ったのでした。
貝よりもっと、カフェの名前にそぐわないとも気づかずに。
(参考)「プチ・ロワイヤル仏和」から引用
coquille[コキーユ]
女性名詞(英shell)
@貝殻
A(甲殻類・カタツムリ・卵・木の実などの)殻
B貝殻形の容器
coquillage[コキヤージュ]
男性名詞
@貝
A貝殻
cocu[コキュ]
名詞(話)
配偶者(恋人)を寝取られた人
形容詞(話)
寝取られた、だまされた
(リンク)
異邦人(エトランジェ)たちのパリ
国立新美術館
カフェ・コキーユ 名前の由来あり
よく見ると、コーヒーカップに、ちゃんと赤い貝のマークが付いていました。
「異邦人たちのパリ」とフランス語(2)
「聴くだけのラピッド単語暗記帳」のレビュー