2007年04月16日

 「異邦人たちのパリ」とフランス語(2)



 六本木の国立新美術館にやってきた相棒とわたしは、フランス語で「貝殻」を意味する、1階のカフェ「コキーユ」で、ひとしきりくつろいだあと、荷物をコインロッカーにすべて預け、洗面所を済ませると、いよいよ2階の展覧会場へと歩を進めました。

 なお、アルベール・カミュの「異邦人」をフランス語で読んだ話は、こちらです。

 なかに入ると、薄暗い入り口わきの壁には、「異邦人たちのパリ」のプロローグを記したボードがかけられていました。

 なるほど、今回の展覧会は、ポンピドー・センター所蔵の、当時、パリで活躍していた外国人芸術家たちの作品が集められたものなんだな、とひとしきり概略をつかみました。

 たしか、3年前に、相棒とわたしがパリを訪れた際には、ルーブルとオルセーには問題なく入ることができたのですが、ポンピドー・センターは、ちょうど改修工事中で、残念ながら、中に入ることがかないませんでした。

 そんなことを思い出しながら、ふと隣に目をやると、なんと、すぐ横に、いま読んだばかりのプロローグが、そっくりそのままフランス語で書かれたボードがあるではありませんか。

 フランス語学習者としては、素通りはできません。

 しかし、さすがに全く同じ内容を、ふたたびフランス語で読み直す気にはとてもなれず、はやく絵を見たいというはやる気持ちにせかされる形で、結局、冒頭のほんの数行に目を通しただけで、奥へと進んでしまいました。

 あれくらいのフランス語なら、読もうと思えば読めるぞ、と心の中で負け惜しみをつぶやきながら・・・。

 というのも、ここのところ、何が起きたのだろうと自分でもいぶかるくらい、めきめきとフランス語が読めるようになってきているので、最近のわたしは、ちょっぴり自信過剰気味なのです。


  ワシリー・カンディンスキー


 さて、奥に進むと、タイトル通り、ピカソやらモディリアーニやら、その時代、パリに集結した異邦人たちの作品がずらりと揃っていました。

 こうして、いくつも並んだ作品の中に、かつて別の展覧会で見たお気に入りの画家の作品を見つけるのは、うれしいものです。

 ピカソやモディリアーニくらいになってしまうと、いたるところで目にしますから、そういった感慨はありませんが、かつて竹芝の東京国立近代美術館の「カンディンスキー展」で見た、ワシリー・カンディンスキーの作品を見つけたときは、すっかり感激し、相棒と目でうなずきあったものです。 

 そんななかでも、わたしたちの足を長いこと引き止めたのは、マルク・シャガールの作品でした。

 「緑の自画像」と「エッフェル塔の新郎新婦」の2作品です。

 どちらも、画集では目にしたことがありましたが、やはり、本物は、受けるインパクトがまるで違います。

 とくに相棒は、かねてから、シャガールの中でいちばん好きだと口にしていた「エッフェル塔の新郎新婦」を目の当たりにして、かなりの衝撃を受けている様子でした。

 そうはいっても、人の流れというのがありますから、同じ作品の前にずっと立っているわけにもゆかず、わたしたちは、何度、この2つ絵の間を行ったり来たりしたか知れません。


  「マルク・シャガール」


 ところで、シャガールといえば、3年前、相棒とふたり、パリのシテ島周辺を散策しているとき、石畳の歩道に面した画廊の窓越しに、偶然、シャガールのエッフェル塔の絵を見かけたことがありました。

 銀座の画廊でも中に入るのは躊躇されるのに、いま、立っているのは本場パリの画廊の前です。

 しかし、そこは外国人観光客という立場の気楽さから、その古めかしい、こじんまりとした威厳ある画廊に、思い切って足を踏み入れたのでした。

 いまでも、木造の古い扉を開けたときの、来客を告げるカランコロンという鐘のかすれた金属音が耳に残っています。

 その小さな画廊の中には、店主と思われる気難しげな年配のフランス人と、いかにも芸術家風情のやわらかい物腰の若いフランス人が、机に広げた書類を前に、なにやら真剣な面持ちで仕事の話をしており、他に客はいませんでした。


  マルク・シャガール


 足を踏み入れると、さっそく、若い方の店員が、ボンジュールと声をかけてきましたが、それきり、放っておいてくれましたので、わたしたちは、自由に店内を見回ることができました。

 しんと静まり返った画廊のなかでは、わたしたちが立てる床板のきしみの合間を縫うようにして、二人の店員がひそひそと交わすフランス語の低音が、心地よく響いていました。

 そうやって、しばらく、店内をうろついたあと、通りから見えた、あのシャガールの絵をもう一度じっくり見たかったので、わたしは、先ほどの若い方の店員に、あの絵を手にとってもいいかと、英語でたずねました。

 わたしとしては、絵はすぐそこにありましたから、自分で手を伸ばして取るつもりで、ただ許可を得ようと尋ねただけなのですが、なんと、その若いフランス人店員は、つかつかとこちらへやってくるではありませんか。

 そして、窓際の、絵がたくさん並べられているエリアにわけ入って、どの絵だと聞くので、そのシャガールの青い絵だと答えると、それを取って、わざわざわたしに手渡してくれたのです。

 しかも、困ったことに、彼は、その後、わたしから、ちょっと離れたところで、こちらを向いてじっと立っています。

 わたしとしても、まずいことになった、ここは何かしゃべらないと間がもたない、と焦りを覚え、しかし、追い詰められたわたしの口からようやくしぼり出されたのは、「これはエッフェル塔ですか?」という何とも幼稚な質問でした。

 結局、30ユーロほどの安い絵だったこともあり、わたしたちは、そのマルクシャガールの小さな小さな絵を購入したのでした。

 ちゃんとした額縁に入っていて、そのときは、それなりに見えたのですが、ホテルに帰ってからよくよく調べてみると、額縁の中に入っていたのは、美術館でもよく売っている、ちょっと大き目のポストカードでした。

 もちろん、わたしだって、これがレプリカであることは承知していましたが、まさかポストカードだったとは・・・。

 しかし、相棒は、自分の見る目のなさにショックを受けているわたしにはいっさい取り合わず、パリで買ったんだから、それでいいじゃない、と今でも玄関に、仰々しい額縁に収められた小さなシャガールの絵をうやうやしく飾っています。


  「モディリアーニ」


 さて、国立新美術館に話は戻ります。

 展示会場の後半は、現代アートの部門になっていました。

 すると、それまでの古典的な雰囲気とはがらりと変わり、わたしには何のことやらまるでついていけない作品のオンパレードになりました。

 ただ、そのなかに、一点だけ、わたしの注意をひきつけた巨大オブジェがありました。

 理由は、簡単。そのオブジェには、たくさんのフランス語がベタベタ貼りつけてあったからです。

 わたしは、そのオブジェじたいには、正直、なんの興味もそそられなかったのですが、そこに貼られたフランス語を読むのが楽しくて、けっこう長いこと、居座ってしまいました。

 ほかに足を止める人は、ほとんどいませんでしたから。

 そういえば、たしか、去年、渋谷のBunkamuraで、「ピカソとモディリアーニの時代」を見たときも、ポスターやら文献やらに、めざとくフランス語を見つけては、それをひとつひとつ読んで、ひとりほくそえんでいましたっけ。

 とにかく、わたしのようなフランス語初心者にとっては、家の外でフランス語に出会うという、ただそれだけのことが、うれしくてならないのです。


  パブロ・ピカソ 


 では、この日最後のフランス語体験をもうひとつ。

 せっかく六本木まで来たのだから、美術館のあとは、六本木ヒルズでランチを食べようということになりました。

 もちろん、相棒もわたしも、六本木ヒルズに行くのは、初めてです。

 巨大迷路のような六本木ヒルズに翻弄されながらも、ようやくたどり着いた手ごろなカフェに一歩足を踏み入れると、レジの前に立つ店員は外国人でした。

 スキンヘッドのがっちりした体格で、肌は浅黒く、どこの国の人か、見当がつきませんでした。

 しかし、その店員が、わたしたちを先導しながら、店の奥に向かって、「ドゥペルソンヌ、・・・アリヴ・・・○△□※ωα」と叫んだではありませんか。

 そう、わたしは、冒頭のドゥペルソンヌとアリヴしか聞き取れませんでしたが、それは、間違いなく、フランス語でした。

 テーブルについてから、わたしにその話を聞かされた相棒は、ちびまる子風に、「さすがギロッポン、店員がフランス人だよ」とつぶやきました。

 窓から毛利庭園が見える「IDÉE CAFFÈ」という名の六本木ヒルズ内の洒落たカフェ。

 たしかにピザロールはおいしかったけれど、「あたしゃ、近所のセルフリッチカフェの方が落ち着くよ」と、今度は、わたしが、ちびまる子風につぶやきました。

 というわけで、六本木の国立新美術館に出かけた際の、フランス語にまつわるお話は以上です。

 ちなみに、相棒とは、5月に「モネ展」を見に、ふたたび国立新美術館に行く約束をしています。

 「モネ展」では、小泉今日子さんが音声ガイドをしているそうです。


  「クロード・モネ」


■ 「異邦人たちのパリ」とフランス語(1)
■ フランスの写真家アンリ・カルティエ=ブレッソン




彼女はときどきフランス語と遊ぶ new










フランス語検定体験記 フランス語の学習日記
  フランス語の独学スタート   フランス語の学習法
  仏検3級・4級体験記   フランス語の例文暗記
  仏検2級体験記   フランス語の単語暗記
  仏検準1級体験記   フランス語の多読日記
  仏検1級体験記   フランス語の聞き取り・書き取り
  フランス語のよもやま話   フランス語の参考書レビュー
  フランス語の学習記録   全記事一覧
  Elle joue avec les Français de temps en temps.   キンドル(Kindle)とフランス語
  プロフィール   フランス語の参考書フランス語の参考書・問題集



30からのフランス語
彼女はときどきフランス語と遊ぶ

Feel free to link this site.

ブログパーツ