2005年09月08日

外国語を学ぶ喜び



 きょうママンが死んだ。いや、昨日だったかもしれない。

 アルベール・カミュの「異邦人」を初めて手にしたのは、高校生のときでした。

 当時、通っていた予備校だか、あるいは、Z会だかの現代文の題材になっていたのを、おもしろかったので、本屋で購入して、改めて通して読んでみた、ということだったと思います。

 高校生のわたしが、どれほど不条理を理解したかは、はなはだ疑問ですが、それでも、「異邦人」は、おなじくカミュの著である「シーシュポスの神話」とともに、それから20代前半くらいまでのあいだ、ずっとわたしの愛読書でした。

 それから、時が過ぎること10年。30歳を過ぎてから、ひょんなきっかけでフランス語の独学を始めたわたしが、ふたたび「異邦人」と再会したのは、近所の図書館でした。

 当時のわたしは、3ヵ月後に控えたパリ旅行にむけて軽い気持ちで購入したはずの「TALK NOW!」という学習ソフトにすっかり入れ込んでしまい、現地で使えるようにと、発音の学習や、数字などの基本単語を覚えることに夢中になっていました。

 旅行で中断されてしまうのがいやだったので、まだ本格的な文法の学習には手を出していなかったのですが、それでも、つづり字と発音の関係を学んだうえで、「聴くだけのラピッド暗記単語帳」をリオに入れて聴きつづけたおかげで、単なる旅行者としては十分すぎるくらいの単語を覚えるほどになっていました。

(このあたりの様子は、こちら

 それですっかり思い上がったわたしは、絵本くらいなら、もしかしたら読めるかも知れないと、意気込んで、はやる気持ちをおさえながら、近所の図書館の洋書コーナーに足を伸ばしたところ、さっそく「Le Petit Prince」を見つけました。

 そうして、文字を覚えたての子どもがやるように、自分が読める単語だけを拾っては、悦に入っていたのですが、ふと棚に目をもどすと、「Le Mythe de Sisyphe」の文字が飛び込んできました。

 これって、もしかして、シーシュポスの神話じゃないか、と胸をときめかせ、さらに、その横にある「L'etranger」を見て、ああ、間違いない、これは、異邦人だ、と確信し、その2冊を大事そうに閲覧コーナーまで持ち運び、中をそっと開いてみたのでした。

 どちらも、翻訳はくり返し読んでいるので、冒頭の一節などは、頭に入っています。

 すると、どうでしょう。わかる、わかるのです。嘘みたいに、わかるのです。もう、この時の喜びといったら、ありません。

 もちろん、分かるといっても、冒頭の数行が、英単語との類推も手伝って、何が書かれているかが分かる、というくらいの話です。

 しかし、ノーベル文学賞も受賞している世界的な作家の原書です。

 どれだけわたしが感激したかは、当時の手帳のその日の欄に、その一節が小さな字でていねいに書き写されていることからも、ご想像いただけるのではないでしょうか。


   L'Etranger (Collection Folio, 2)


Aujourd'hui, maman est morte. Ou peut-etre hier, je ne sais pas.

 「金色の眼の猫」でマヤがホテルの女主人に「何泊ですか?」と聞かれて「2泊か3泊、もしかしたら、1週間かも」と答える場面で出てきた、「peut-etre (もしかすると)」という単語。

 そして、「フランス語のABC」で曜日を覚える際に出てきた「Aujourd'hui(今日)」や「hier(昨日)」という単語は、偶然にも、ここ数日で覚えた単語でした。

 だから、もし、「L'etranger」をその日よりほんの少しでも前に手にしていたら、こうはすんなり読めなかったほどの、まさにグッド・タイミングだったのです。

 それにしても、今でも悔やまれるのは、それほど思い入れがある本なのに、その後、実際にパリを訪れた際、Fnac の文庫本コーナーで、やはり現地版の「L'etranger」を手にしながら、どうせ買っても読めるようになるのは、ずいぶん先だものなと、また棚にもどしてしまったことです。

 記念として、そして、目標としても、ぜひとも購入しておくべきでした。

 いずれにせよ、あの日、愛読書だった「L'etranger」の冒頭のフランス語がわずかでも読めたときに感じた胸の高鳴りこそ、きっと外国語を学ぶ根源的な喜びなのだろうと、今にして思うのです。

(参考)

 「異邦人
 「シーシュポスの神話















この記事へのコメント



◎ shirosuke さんのコメント
2005年09月23日



こんにちは。
「l'etranger」 は、原文で読んだことはありませんが、「異邦人」は学生の頃に読み、かなりの衝撃を受けたことは今でも忘れられません。
太陽がギラギラと照りつける海岸、ムルソーの驚くべき行動の数々・・・。当時の私は不条理という言葉さえ知りませんでしたから。
人間社会の不条理さを考えさせられる、きっかけになった小説でした。moitieさんに影響されて、原文もいつか読んでみたいと思いました。
原文で読めたら、喜びも大きいでしょうね!






◎ moitie さんのコメント
2005年09月23日



shirosuke さん、お久しぶりです!shirosuke さんも「異邦人」がお好きでしたか。ときどき「しろすけのつれづれ」にもおじゃましていますが、shirosuke さんの映画や本などのセレクトを見るたびに、自分の感性に近いものがあるな、とつねづね思っていたので、やはり、なのかも知れません。

ところで、こんなところで相談するのもどうかと思いますが、「しろすけのつれづれ」にコメントを寄せたいのですが、メアドまで書き込まないと、エラーがでるようなのです。かつて、ブログ上でメアドを表示してスパムメールで痛い目にあっているわたしとしては、どうも抵抗があって。

いつも、コメントを頂くだけで、返せないことを心苦しく思っているので、もし可能なら設定をちょこっと変えていただけると、うれしいのですが。勝手なことを申し上げて、ごめんなさい!






◎ shirosuke さんのコメント
2005年09月24日



moitieさん、失礼致しました。
「しろすけのつれづれ」の件ですが、メアド、URLを入力しなくてもコメントして頂ける様に変更しました。
でも、コメントを返せなかったことを、気になさらないで下さいね。私は、こちらのブログに来させて頂くだけで、満足しています♪







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