2005年09月23日

シュリーマンの多言語習得法



 トロイアの遺跡を発掘したことでも有名なドイツのハインリヒ・シュリーマンは、わずか6ヶ月でフランス語をマスターしたそうです。

 わたしは、ほんの数日前、考古学者としてのシュリーマンにではなく、生涯に10数カ国語を習得した、いわゆる polyglot (多言語習得者)としてのシュリーマンに興味を持ち、彼の自伝である「古代への情熱」を実際に読んでみました。

 読んでみて、なにより驚いたのが、シュリーマンがひとつの外国語を習得するまでのスピードです。英語とフランス語は6ヶ月、オランダ語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語は6週間で、どれも自由に話したり書いたりできるようになっているのです。


   古代への情熱―シュリーマン自伝    40ヵ国語習得法―私はこうしてマスターした    外国語学習に成功する人、しない人―第二言語習得論への招待


 彼が語る、たいへん効率のいい語学習得法とは、
@ たくさん音読すること
A 翻訳しないこと
B 毎日レッスンを受けること
C 興味のもてるテーマを選んでたえず作文すること
D それを先生の指導のもとに訂正すること
E それを暗記すること
F 次のレッスンのとき訂正部分をもう一度やってみること
だそうです。

 初めにとりかかった英語の勉強では、住み込み店員としての貧しい給料の半分を、先生を雇うなどの勉学の費用にあて、どんな半端な時間でも勉強のために活用し、無理にでも時間をひねりだしたそうです。

 エピソードとしては、よい発音を早く身につけるために、日曜ごとに教会の礼拝に2回ずつ出席して、牧師の説教を聴きながら、一語一語、正確に口の中で唱えたり、使い走りのときは、たとえ雨が降っていても、かならず片手には本をかかえ、何かを暗誦しながら歩き、郵便局で順番を待っているひまには、かならず本を読み、夜中には不眠の数時間をつかって、その晩に読んだ文章を頭のなかでたどりかえした、とあります。

 これらのエピソードを読んだとき、歩きながら「リオ」で例文を聴いてシャドウィングを繰り返したり、寝る前に例文を音読したりする自分の姿が、不遜にも、重なって思い出されました。そうして、苦学する若きシュリーマンに、そっと「リオ」を手渡したいとさえ思いました。


   わたしの外国語学習法    科学的な外国語学習法―日本人のための最も効率のよい学び方     英語のたくらみ、フランス語のたわむれ


 さらに、シュリーマンは、こうして苦学しながらも、時間を工面して「ウェイクフィールドの牧師」と「アイヴァンホー」をどちらもぜんぶ暗記してしまいます。

 このようにして、英語を半年ですっかり自分のものにすることに成功したあとは、フランス語に関しても、同じ方法を適用し、やはり6ヶ月でフランス語が自由に使えるようなります。

 フランス語を学ぶ際には、「テレマックの冒険」と「ポールとヴィルジニー」を全文暗記したそうです。

 「仏検 準1級・2級必須単語集」のわずか20例文を覚えるのに、丸1年をかけてしまったわたしは、この記述を読んで、すっかり小さくなってしまいました。

 しかし、それぞれ無関係な例文をバラバラに覚えるよりも、文章が有機的なつながりをもつ物語を1冊覚える方が、むしろ楽なのかも知れません。

 わたしが、例文暗記の素材に、迷ったすえ「これは似ている英仏基本構文100+95」ではなく「仏検 準1級・2級必須単語集」を選んだのも、同じ理由からでした。

   (このあたりの事情は、こちら

 また、シュリーマンは、先生の見つからなかったロシア語の勉強では、フランス語で用いた「テレマックの冒険」のロシア語訳を丸暗記することで、半年後には、ロシア商人とのあいだで、すらすら会話が交わせるほど上達します。

 シュリーマンは、ギリシア語を習得する際にも、同じように、フランス語で用いた「ポールとヴィルジニー」のギリシア語訳を手に入れて、1語1語フランス語の原文とつきあわせながら通読しています。


   Totto‐chan―The little girl at the window    The Catcher in the Rye    キャッチャー・イン・ザ・ライ 


 この、同じ物語を素材にして各国語を横断的に理解する、という方法には、たいへん興味を覚えました。

 わたしが、高校生のときに初めて読んだ洋書は、当時のベストセラーの英訳「Totto‐chan―The little girl at the window」でしたが、日本語版をくり返し読んでストーリーが頭に入っていたので、わりあいスムーズに読むことができた、という経験をしたことがありました。

 その後、30歳を過ぎて洋書を多く読むようになってからも、「Catcher in the Rye」など、翻訳で内容を知っているものは、理解が容易でした。

 そう考えると、それを、日本語と外国語ではなく、外国語同士で応用したシュリーマンの方法は、なるほどと納得させられます。

 われわれは学校で英語を学んできたわけですから、フランス語の学習には、「French Stories/Contes Francais」などのデュアル・ブックを用いれば、シュリーマンと同じ方法をとることができるかもしれません。


   French Stories/Contes Francais: A Dual-Language Book (Dual-Language Books)    The Complete Fairy Tales in Verse and Prose/L'Integrale Des Contes En Vers Et En Prose: A Dual-Language Book    Best Short Stories/Les Meilleurs Contes: A Dual-Language Book (Dual-Language Book) 


 それにしても、読んでいて、おもわず吹き出したのが、シュリーマンが、「テレマックの冒険」の全文暗記を行う際に、「だれかに話して聞かせることにすれば、よりいっそうはかどるだろう」と思いついたくだりでした。


そこで私は、ひとりの貧しいユダヤ人を1週4フランで雇ってきた。彼は毎晩2時間ずつロシア語の暗誦を聞かされる・・・自分にはひとことも分からない話を。


 「古代への情熱」を読んだ、といっても、語学を習得する場面の出てくる第1章だけの拾い読みでしたので、寝る前の小1時間で読み終えることができました。

 語学とは無関係な箇所でも、初恋の相手ミンナへの思いや、小さな食品店の住み込み店員から「もうこれ以上財産をつくる必要はないから商業活動をやめよう」と思うほどに大成功を収める半生には、ついつい引き込まれてしまいます。

 短期間で次々に外国語を習得していくシュリーマンの方法論は、それだけで十分刺激的でしたが、なにより、家庭の事情でろくに教育も受けられなかったシュリーマンが、生活のための労働に従事しながら、自らの運命を切り開くべく、語学の習得に没頭する、その情熱と行動力には、自然と背筋が伸びる思いでした。

 仏検までの2ヶ月で「完全予想仏検2級」を終わらせるくらい、なんぼのもんじゃい、と勇気を与えられた1冊でした。




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