シャノアール事件から、はや4年。
わたしのフランス語も、当時と比べれば、ずいぶんと成長しました。
しかし、日常生活でフランス語に出会うと、ついつい興奮してしまう癖は、今でもあまり変わらないようです。
つい先だっても、相棒といっしょに近所のヴィドフランスで、パンとコーヒーを楽しんでいたときのことでした。
いえいえ、もちろん、ヴィドフランスが、Vie de France であることくらいは、いくらわたしといえども、それこそ、フランス語を勉強する以前から、英語との類推で、何となく想像できていたことでした。
そうではなく、今回は、席についてミルクパンを食べようとしたら、パンを包んでいる紙に、フランス語が書かれているのを発見した、という話なのです。

お家でフランス語
もちろん、発見するやいなや、わたしは、パンそっちのけで、すぐにフランス語の解読に取り掛かりました。
そこには、次のような、対句形式のフランス語が印刷されていました。
En France,on dit que les croissants au beurre sont croustillants.
En Vie de France,nous souhaitons vous transmettre le gout d'origine.
独学とはいえ、4年もフランス語を勉強しているので、さすがにわたしでも、書かれている内容はすぐに理解することができました。
心の中は、うれしさでいっぱいです。

アテネ・フランセ
しかし、悔しいことに、ひとつだけ意味の分からないフランス語がありました。
1文目の croustillant という形容詞です。
その部分を抜かして直訳すれば、全体は、次のような意味になるのだろうと思います。
フランスでは、バター・クロワッサンは、croustillant だそうです。
ヴィドフランスでは、みなさんに、その本場の味をお伝えしたいと願っています。

フランス語書き取りトレーニング
わたしは、croustillant の意味が分からなかったのが悔しくて、家に帰ってから調べようと、フランス語が書かれた部分だけを切り取ることにしました。
そのおかげで、先ほどの、一連のフランス語も正確に再現できているわけなのです。
ちなみに、croustillant というのは、後から電子辞書で調べたところによると、ビスケットなどがパリパリ(カリカリ)する様子を表わす形容詞だそうです。
相棒は、パンの包み紙をびりびりと破り始めたわたしの挙動不審な行動を、また始まった、という表情で、コーヒーを啜りながら、無言のまま見守っています。
わたしは、相棒のそんなあきれたような視線はものともせず、他にもフランス語が書かれていないか、辺りをきょろきょろと見回しました。
その時の切れはし
すると、パリの街角とおぼしき写真があしらわれている目の前の壁にも、フランス語が・・・。
しかし、残念なことに、すぐに、それは英語であることが判明しました。
なんだよ、ヴィドフランスなんだから、そこはフランス語にしておけよ、と心の中で舌打ちしながら、飽きもせず、またぞろフランス語の探索に戻りました。
すると、どうでしょう。
灯台下暗し。
なんと自分がいま手にしているコーヒーカップに、フランス語が書かれているではありませんか。
パン好きな相棒とわたしは、この駅前のヴィドフランスには、これまでに何度となく足を運んでいます。
それなのに、今の今まで、カップに印字されたフランス語の存在に、まったく気づかずにいたのです。
うかつでした。
なぜ今まで気づかなかったのだろうと、いささかショックを受けながらも、わたしは、さっそく解読作業に取り掛かりました。

フレンチポップスで学ぶフランス語
Nous vous recommandons un café au lait bien chaud accompagned'un croustillant croissant pour votre pause.
こちらのフランス語も、内容はすんなり理解することが出来ました。
ただし、またしても、憎き croustillant を除いてです。
croustillantなクロワッサンといっしょに、熱々のカフェオレで一服どうぞ。
同じ単語の襲撃に、わたしの悔しさは募るばかり。
とはいえ、先ほど同様、フランス語をまったく知らない人から見ればただの飾りに過ぎない一連の横文字が、とにもかくにも、こうして理解できたわけです。
わたしは、ふかふかのミルクパンを味わいながら、ささやかな幸せが、コーヒーの馥郁たる香りとともに、心の中に、じんわりと広がってゆくのを感じました。

フランス語筆記体レッスン
えっ?何ですって?
モワティエよ、パンの包み紙に書かれたフランス語ならともかく、おまえは、なぜ、コーヒーカップに印字されていたフランス語を、今ここでこうして正確に再現できたのか、ですって?
いえいえ、いくらふだんから名詞化辞典の例文暗記になじんでいるとはいえ、カップに書かれたフランス語をその場で一字一句たがわずに記憶して帰るような芸当が、わたしに出来ようはずがありません。
それはですね、種明かしをすれば、バックの中から、シャープペンシルを取り出して、先ほど破いたパンの包み紙の裏に、しっかりメモをしておいたからなのですよ。
先ほどの切れはしの裏
シャノアールにせよ、ヴィドフランスにせよ、こうした、参考書の中ではない、ごく普通の日常生活で出会うフランス語は、いつも、わたしにささやかな喜びを与えてくれます。
横を通り過ぎるたびに、何という意味なのだろうと、ふだんから疑問に思っていた近所のリヴィエールという名前のアパートが、フランス語の rivière(川)であったこと。
福知山線脱線事故の際に盛んにテレビで耳にしたトリアージュが、フランス語の triage (選別)であったこと。
六本木の国立新美術館に出かけた際に立ち寄ったコキヤージュという名前のカフェが、パリ旅行前にラピッドで覚えた coquillage(貝)であったこと。
あの有名なアデランスが、フランス語の adhérence(接着)であったこと。
などなど、わたしを興奮させた、日常生活で出会うフランス語の例は、枚挙に暇がありません。
ただ、どの場合にも共通して言えるのは、フランス語を勉強していてよかったな、としみじみ思わせてくれる瞬間であった、ということです。
日常生活で出会うフランス語(シャネル広告編)
日常生活で出会うフランス語(シャノアール編)
六本木の国立新美術館で出会ったフランス語